社会福祉法人 恩賜財団 済生会松阪総合病院
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ART生殖医療センター

腹腔鏡下手術

卵管留水腫・付属器周囲癒着

卵管周囲癒着・卵管留水腫

卵管周囲癒着とは、卵管の周囲が子宮・卵巣・腸管などと癒着し、卵管の動きが制限される状態です。 卵子は、卵管の先端にある卵管采(卵子をキャッチする部分)が動いて取り込むことで卵管内に入ります。 そのため、卵管が癒着で固定されると卵管采が十分に動けず、卵子を取り込めなくなることで自然妊娠が難しくなることがあります。

卵管周囲癒着は、超音波や子宮卵管造影(HSG)では分かりにくく、腹腔鏡で初めて診断されることも多い不妊原因です。 原因としては、子宮内膜症、過去の腹膜炎や感染症による骨盤腹膜炎、手術後の癒着、子宮筋腫による牽引などが挙げられます。

卵管留水腫(卵管水腫)

卵管の先端(卵管采)が閉じてしまい、内部に水が溜まった状態を指します。 卵管水腫があると、

  • 卵子が卵管に入れない
  • 卵管内の環境が悪化する
  • 体外受精の胚移植後に水が子宮内へ逆流し、着床率が低下する ことが知られています。

そのため、卵管水腫は体外受精の妊娠率を下げる重要な病態として扱われます。

腹腔鏡下手術による治療

腹腔鏡手術では、

  • 卵管周囲の癒着を丁寧に剥離し、卵管采の動きを回復
  • 閉じている卵管采を開放し、卵子を取り込みやすい状態に改善
  • 卵管水腫がある場合は、状況に応じて卵管切除を検討

特に卵管水腫がある場合、卵管を温存しても体外受精の着床率が改善しにくいため、胚移植前の卵管切除が妊娠率向上に有効と報告されています。また、片側卵管水腫、片側正常の場合、片側卵管水腫を切除した場合、自然妊娠も期待されます。

帝王切開瘢痕症候群

腹腔鏡下帝王切開瘢痕修復術(子宮鏡併用)

帝王切開後の子宮前壁には、まれに瘢痕部が陥凹する「ニッチ」と呼ばれる状態が生じることがあります。 ニッチがあると月経血が溜まりやすく、不正出血・慢性的な骨盤痛・着床障害の原因となることがあります。また、瘢痕部の筋層が薄い場合には、妊娠中の子宮破裂リスクが問題となることもあります。

生殖医療の領域では、ニッチが子宮内腔の形態に影響し、胚移植後の着床率低下や反復着床不全につながることが報告されています。当センターでは、症状や妊娠希望、胚移植の予定を踏まえ、必要に応じて腹腔鏡と子宮鏡を併用した低侵襲の瘢痕修復術を行っています。

腹腔鏡では子宮前壁の瘢痕部を直接確認し、菲薄化した部分を切除して丈夫な筋層として再縫合します。同時に子宮鏡で子宮内腔を観察することで、瘢痕の位置・深さ・子宮腔への影響を正確に評価でき、安全で確実な修復が可能になります。

この治療により期待される効果は以下のとおりです。

  • 不正出血の改善
  • 着床環境の正常化
  • 次回妊娠時の安全性向上

当センターでは、瘢痕の大きさ・症状・妊娠希望・胚移植の時期などを総合的に判断し、妊娠率と安全性の観点から治療方針をご提案します。

子宮内膜症

子宮内膜症とは、本来は子宮の内側だけに存在する子宮内膜に似た組織が、卵巣・卵管・骨盤内の腹膜など子宮以外の場所に広がってしまう病気です。異所性に存在する内膜組織は、通常の月経周期と同じようにホルモンの影響を受けて増殖し、月経時に出血します。この出血は体外に排出されないため、周囲に無菌性の炎症が起こり、臓器同士が癒着することがあります。

主な症状

子宮内膜症でみられる症状は次の通りです。

  • 強い月経痛(月経困難症)
  • 慢性的な骨盤痛(月経以外の時期にも痛むことがあります)
  • 性交痛・排便痛
  • 不妊

症状の強さは病変の大きさと必ずしも一致せず、小さな病変でも強い痛みを生じることがあります。

不妊との関係

子宮内膜症は、複数の要因が重なって不妊の原因となることがあります。

  • 卵巣や卵管周囲の癒着による卵子のピックアップ障害
  • 卵管の閉塞
  • 腹腔内の炎症性サイトカイン増加による受精障害
  • 卵巣機能の低下(卵巣内に病変がある場合)

これらが組み合わさることで、自然妊娠が難しくなることがあります。

腹腔鏡手術の役割

腹腔鏡手術では、子宮内膜症によって生じた病変を除去し、癒着を丁寧に剥離します。 卵巣から排卵された卵子が卵管に取り込まれやすいよう、骨盤内の臓器の位置関係を整えることも重要なポイントです。

特に卵巣にできた子宮内膜症(チョコレート嚢胞)を切除する際には、将来の妊娠を考慮し、正常な卵巣組織をできるだけ残すよう慎重に手術を行います。ただし、どれほど注意しても術後に卵巣予備能(AMH)が低下する可能性があるため、術前に十分な説明を行っています。

腹腔鏡手術により痛みが改善し、他の不妊因子がなければ自然妊娠が期待できるケースもあります

再発と長期管理

子宮内膜症は再発率が高い疾患であり、長期的な経過観察が必要です。 また、卵巣のチョコレート嚢胞(子宮内膜症性嚢胞)は、年齢や嚢胞の大きさによってはまれに悪性化する可能性があるため、定期的な診察をおすすめします。

当センターでは、妊娠希望の有無、年齢、卵巣予備能、嚢胞の大きさや症状を総合的に評価し、最適な治療を提案しています。

子宮筋腫

子宮筋腫:症状・影響・治療について

子宮筋腫は、子宮の筋肉にできるコブ状の良性腫瘍で、女性ホルモンの影響を受けて徐々に大きくなることがあります。発生する場所によって症状や妊娠への影響が異なり、以下のように分類されます。

  • 漿膜下筋腫
    子宮の外側に向かって発育するタイプで、周囲臓器を圧迫し腹部の張りや違和感を生じることがあります。大きくなるまで症状が出にくい傾向があります。
  • 筋層内筋腫
    子宮筋層内にできる最も一般的な筋腫で、子宮全体が大きくなることで月経痛や経血量増加を引き起こします。着床障害や不妊の原因となることがあります。また、貧血の原因となることもあります。
  • 粘膜下筋腫
    子宮内膜側に発育し、少しの大きさでも不正出血や強い月経痛を伴いやすいタイプです。子宮腔を変形させるため、着床障害や不妊の原因となりやすいことが特徴です。

子宮筋腫は成長に伴い「変性」を起こすことがあり、壊死した部分に炎症が生じると強い痛みや発熱を伴うことがあります。大きな筋腫では腹痛・圧迫感が強まり、日常生活に支障をきたすこともあります。

また、妊娠中には筋腫が子宮内のスペースを狭めたり、子宮収縮を誘発したりすることで、流産・早産のリスクが高まることが知られています。

腹腔鏡下子宮筋腫核出術について

症状が強い場合、自然妊娠を希望している場合、または筋腫が着床を妨げて不妊治療に影響している場合には、腹腔鏡下子宮筋腫核出術が選択肢となります。

腹腔鏡手術では、子宮筋腫を直接観察しながら必要な筋腫を切除し、子宮の形態を整えることができます。傷が小さく回復が早いことが特徴で、妊娠を希望する方にも適した治療です。

術後に妊娠した場合は、子宮壁の縫合部位への負荷を避けるため、帝王切開が推奨されることが多いとされています。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

PCOSの病態

PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)は、女性ホルモンのバランスが乱れることで、卵巣に多数の小さな嚢胞(卵胞)がみられる状態です。この影響で排卵が起こりにくくなり、生理不順や妊娠しにくさ(排卵障害)につながります。

原因は完全には解明されていませんが、

  • 遺伝的要因
  • インスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態) が関与すると考えられています。

卵胞が育っても排卵に至らず、卵巣の表面が厚く硬くなることで、さらに排卵しにくい状態が続くことがあります。

PCOSと不妊の関係

PCOSでは排卵が不規則または停止するため、自然妊娠が難しくなることがあります。 また、インスリン抵抗性やホルモン環境の乱れが、卵子の成熟や受精にも影響することが知られています。

生殖医療では、

  • 排卵の有無
  • ホルモン値(LH/FSH比、AMHなど)
  • インスリン抵抗性の評価

 PCOSに対する腹腔鏡手術(卵巣多孔術)

薬物療法(排卵誘発剤)で排卵が得られない場合や、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高い場合には、腹腔鏡下で行う卵巣多孔術(卵巣ドリリング)を検討します。

この手術では、腹腔鏡を用いて卵巣の表面に小さな穴を複数開け、卵巣のホルモン環境を改善します。 作用機序は完全には解明されていませんが、

  • 排卵率の改善
  • 自然妊娠の期待
  • 排卵誘発剤への反応性向上 が報告されています。

手術を検討するケース

  • 自然妊娠を希望している
  • 排卵誘発剤で排卵が得られない
  • 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の既往がある、またはリスクが高い

卵巣多孔術は、薬物療法だけでは改善が難しいPCOSに対して、妊娠への道筋を広げる選択肢となります。


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