卵管周囲癒着とは、卵管の周囲が子宮・卵巣・腸管などと癒着し、卵管の動きが制限される状態です。 卵子は、卵管の先端にある卵管采(卵子をキャッチする部分)が動いて取り込むことで卵管内に入ります。 そのため、卵管が癒着で固定されると卵管采が十分に動けず、卵子を取り込めなくなることで自然妊娠が難しくなることがあります。
卵管周囲癒着は、超音波や子宮卵管造影(HSG)では分かりにくく、腹腔鏡で初めて診断されることも多い不妊原因です。 原因としては、子宮内膜症、過去の腹膜炎や感染症による骨盤腹膜炎、手術後の癒着、子宮筋腫による牽引などが挙げられます。
卵管の先端(卵管采)が閉じてしまい、内部に水が溜まった状態を指します。 卵管水腫があると、
そのため、卵管水腫は体外受精の妊娠率を下げる重要な病態として扱われます。
腹腔鏡手術では、
特に卵管水腫がある場合、卵管を温存しても体外受精の着床率が改善しにくいため、胚移植前の卵管切除が妊娠率向上に有効と報告されています。また、片側卵管水腫、片側正常の場合、片側卵管水腫を切除した場合、自然妊娠も期待されます。
帝王切開後の子宮前壁には、まれに瘢痕部が陥凹する「ニッチ」と呼ばれる状態が生じることがあります。 ニッチがあると月経血が溜まりやすく、不正出血・慢性的な骨盤痛・着床障害の原因となることがあります。また、瘢痕部の筋層が薄い場合には、妊娠中の子宮破裂リスクが問題となることもあります。
生殖医療の領域では、ニッチが子宮内腔の形態に影響し、胚移植後の着床率低下や反復着床不全につながることが報告されています。当センターでは、症状や妊娠希望、胚移植の予定を踏まえ、必要に応じて腹腔鏡と子宮鏡を併用した低侵襲の瘢痕修復術を行っています。
腹腔鏡では子宮前壁の瘢痕部を直接確認し、菲薄化した部分を切除して丈夫な筋層として再縫合します。同時に子宮鏡で子宮内腔を観察することで、瘢痕の位置・深さ・子宮腔への影響を正確に評価でき、安全で確実な修復が可能になります。
この治療により期待される効果は以下のとおりです。
当センターでは、瘢痕の大きさ・症状・妊娠希望・胚移植の時期などを総合的に判断し、妊娠率と安全性の観点から治療方針をご提案します。
子宮内膜症とは、本来は子宮の内側だけに存在する子宮内膜に似た組織が、卵巣・卵管・骨盤内の腹膜など子宮以外の場所に広がってしまう病気です。異所性に存在する内膜組織は、通常の月経周期と同じようにホルモンの影響を受けて増殖し、月経時に出血します。この出血は体外に排出されないため、周囲に無菌性の炎症が起こり、臓器同士が癒着することがあります。
子宮内膜症でみられる症状は次の通りです。
症状の強さは病変の大きさと必ずしも一致せず、小さな病変でも強い痛みを生じることがあります。
子宮内膜症は、複数の要因が重なって不妊の原因となることがあります。
これらが組み合わさることで、自然妊娠が難しくなることがあります。
腹腔鏡手術では、子宮内膜症によって生じた病変を除去し、癒着を丁寧に剥離します。 卵巣から排卵された卵子が卵管に取り込まれやすいよう、骨盤内の臓器の位置関係を整えることも重要なポイントです。
特に卵巣にできた子宮内膜症(チョコレート嚢胞)を切除する際には、将来の妊娠を考慮し、正常な卵巣組織をできるだけ残すよう慎重に手術を行います。ただし、どれほど注意しても術後に卵巣予備能(AMH)が低下する可能性があるため、術前に十分な説明を行っています。
腹腔鏡手術により痛みが改善し、他の不妊因子がなければ自然妊娠が期待できるケースもあります。
子宮内膜症は再発率が高い疾患であり、長期的な経過観察が必要です。 また、卵巣のチョコレート嚢胞(子宮内膜症性嚢胞)は、年齢や嚢胞の大きさによってはまれに悪性化する可能性があるため、定期的な診察をおすすめします。
当センターでは、妊娠希望の有無、年齢、卵巣予備能、嚢胞の大きさや症状を総合的に評価し、最適な治療を提案しています。
子宮筋腫は、子宮の筋肉にできるコブ状の良性腫瘍で、女性ホルモンの影響を受けて徐々に大きくなることがあります。発生する場所によって症状や妊娠への影響が異なり、以下のように分類されます。
子宮筋腫は成長に伴い「変性」を起こすことがあり、壊死した部分に炎症が生じると強い痛みや発熱を伴うことがあります。大きな筋腫では腹痛・圧迫感が強まり、日常生活に支障をきたすこともあります。
また、妊娠中には筋腫が子宮内のスペースを狭めたり、子宮収縮を誘発したりすることで、流産・早産のリスクが高まることが知られています。

症状が強い場合、自然妊娠を希望している場合、または筋腫が着床を妨げて不妊治療に影響している場合には、腹腔鏡下子宮筋腫核出術が選択肢となります。
腹腔鏡手術では、子宮筋腫を直接観察しながら必要な筋腫を切除し、子宮の形態を整えることができます。傷が小さく回復が早いことが特徴で、妊娠を希望する方にも適した治療です。
術後に妊娠した場合は、子宮壁の縫合部位への負荷を避けるため、帝王切開が推奨されることが多いとされています。
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)は、女性ホルモンのバランスが乱れることで、卵巣に多数の小さな嚢胞(卵胞)がみられる状態です。この影響で排卵が起こりにくくなり、生理不順や妊娠しにくさ(排卵障害)につながります。
原因は完全には解明されていませんが、
卵胞が育っても排卵に至らず、卵巣の表面が厚く硬くなることで、さらに排卵しにくい状態が続くことがあります。
PCOSでは排卵が不規則または停止するため、自然妊娠が難しくなることがあります。 また、インスリン抵抗性やホルモン環境の乱れが、卵子の成熟や受精にも影響することが知られています。
生殖医療では、
薬物療法(排卵誘発剤)で排卵が得られない場合や、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高い場合には、腹腔鏡下で行う卵巣多孔術(卵巣ドリリング)を検討します。
この手術では、腹腔鏡を用いて卵巣の表面に小さな穴を複数開け、卵巣のホルモン環境を改善します。 作用機序は完全には解明されていませんが、
卵巣多孔術は、薬物療法だけでは改善が難しいPCOSに対して、妊娠への道筋を広げる選択肢となります。